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静岡地方裁判所 平成2年(行ウ)10号 判決 1992年12月17日

静岡県浜松市鴨江三丁目六一番二八号

原告

太平管財株式会社

右代表者代表取締役

林本辰明

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

同県同市元目町一二〇番地一

被告

浜松西税務署長 森茂伸

被告指定代理人

武田みどり

川田武

村上恒夫

原木壽郎

井上陽

内藤彰兌

大澤明広

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  控訴費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

1  原告の昭和五九年八月一日から同六〇年七月三一日までの事業年度分法人税について、被告が昭和六三年一月二九日付けでした更正処分及び重加算税賦課決定処分は無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は不動産の売買、賃貸等を営む株式会社であるところ、昭和五九年八月一日から同六〇年七月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)中に、その所有にかかる別紙物件目録記載の一、二の土地(以下「本件一土地」、「本件二土地」という。)を訴外トレビー企画株式会社(以下「トレビー企画」という。)に総額九、九五六万二、九六〇円で売却したとして、同年度の法人税について、法定申告期限後に、被告に対して、青色申告書によって、

所得金額 五六七万六、二四七円

法人税額 一九八万三、四〇〇円

とする確定申告をした。

2  被告は、前項の申告に対し、昭和六三年一月二九日付けをもって

所得金額 三、四二〇万六、二五三円

法人税額 一、九八五万一、一〇〇円

とする更正処分及び

重加算税額 六二五万一、〇〇〇円

とする賦課決定処分(以下、更正処分と併せて「本件処分」という。)をした。

二  争点

被告のした本件処分に、その成立当初から、外形上客観的に明白な瑕疵が存したかどうかという点である。

1  原告は、以下の理由から、本件処分は重大かつ明白な瑕疵があり、無効であると主張する。

(一) 原告は、トレビー企画との間で、本件一土地につき昭和五八年一二月一六日に代金七、七四九万円で、本件二土地につき昭和五九年一〇年三日に代金二、二〇七万二、九六〇円で売渡す契約を締結し(以下、一括して「本件売買」という。)、原告は右売買代金合計九、九五六万二、九六〇円を、昭和五八年一二月一六日三、〇〇〇万円、昭和五九年一〇月九日三、〇〇〇万円、同月二五日二、二〇七万二、九六〇円、昭和六〇年一月二一日一、七四九万円と分割して支払いを受けた。

(二) トレビー企画においては、本件一、二土地上に、賃貸マンションを建てる計画であり、そのためには、本件一土地については埋立及びコンクリート擁壁設置工事、本件二土地については建物解体・撤去、整地及び右擁壁設置工事等の造成工事が必要であったため、トレビー企画は、原告と代表者を同じくする株式会社林本建設(以下「林本建設」という。)との間で、本件一土地につき昭和五九年一〇月二五日ころ代金二、一七八万円で、本件二土地につき昭和六〇年一月二一日代金一、六三〇万円で、それぞれ造成工事の請負契約を締結した。その後、林本建設は、右工事を実施し、昭和六〇年三月ころまでに、トレビー企画から前記請負代金を一三〇万円を除いて受領した。

(三) ところで、原告は、トレビー企画から、同社が金融機関から融資を受ける際の説明上必要と依頼され、本来の代金合計九、九五六万二、九六〇円の契約書二通(甲第一号証の二、三。以下「甲契約書」という。)とは別に、代金に林本建設とトレビー企画との間の請負契約代金を上乗せし、代金合計一億二、八五六万二、九六〇円とする売買契約書二通(乙第一、二号証。以下「乙契約書」という。)を作成した。このように乙契約書は正規の契約書ではないから、所定の収入印紙も貼付されていない。

(四) ところが、被告は、調査当時原告と対立関係にあったトレビー企画の説明のみに依拠し、甲契約書の記載内容を無視し、乙契約書に基づいて本件課税処分を行ったもので、申告額の十倍に達する本件処分の瑕疵は重大であり、課税当時から存在した甲契約書の記載内容を無視した点で、その事実誤認は明白である。

(五) また、被告は、本件調査に当たって、原告の帳簿書類について何らの調査を行っておらず、これは法人税法一三〇条に違反し、青色申告制度の基本的要請に反するもので無効である。

2  これに対し、被告は、以下の理由から、原告の主張は理由がない旨主張する。

(一) 課税処分が当然無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵が存することを要するものと解すべきであり、処分の瑕疵が明白であるということは、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定の誤認であることが、処成立分の当初から、外形上、客観的に明白であることをさすものと解される。したがって、課税処分について瑕疵がない場合はもちろん、瑕疵があってもその瑕疵が軽微であるとか、重大であるが外形上客観的に明白でないときは、処分の取消しを求め得るにすぎない。

(二) 本件処分において、処分当時存在した甲契約書及び乙契約書のうち、乙契約書の内容がその外形上客観的に事実に反するものであることが明白といえないことは明らかであり、被告が乙契約書に記載されている売買代金に基づいてなした本件処分について、外形上客観的に明白な瑕疵が存するとする原告の主張は失当である。

(三) また、本件処分が法人税法一三〇条に違反し無効である旨の原告の主張は、無効原因の主張として主張自体理由がないばかりでなく、そもそも同条違反の事実も存しない。すなわち、被告の所部係官は、昭和六二年一二月一日原告代表者と面接し、同人が提示した原告の総勘定元帳、不動産売買契約書等の調査を行い、その際、本件売買にかかる土地について甲契約書の金額に基づき経理処理されていることを確認し、販売建物建築費、外注工事費等についても調査検討を行っている。

第三争点に対する判断

一  原告とトレビー企画との間で、本件売買に関し、代金額の異なる甲及び乙契約書が作成されたことは当事者間に争いがないところ、原告は、甲契約書記載の代金額が正当なものであり、乙契約書の代金額は、トレビー企画の金融機関からの融資を容易にするため、トレビー企画が林本建設に請負わせた本件土地の造成費用二、九〇〇万円を上乗せしたものである旨主張している。

しかし、乙第一、二号証によれば、乙契約書には収入印紙が貼付されておらず、また乙契約書二通中の一通については作成年月日の記載を欠いているなど形式上の欠陥が認められ、金融機関の信用を得ることを目的として作成された書類としては疑問が残り、また、林本建設とトレビー企画との請負契約における請負代金合計は、原告の主張によると三、八〇八万円であり、前記上乗せ額と主張する二、九〇〇万円と一致しないばかりでなく、右上乗せ額がいかなる根拠に基づくものであるかは、その主張からも、本件全証拠によっても不明である。このように、甲契約書が正規の契約書である旨の原告の主張は、それ自体合理性に乏しいものといわざるを得ない。

一方、成立に争いのない乙第三、五号証によれば、トレビー企画は、被告に対し、乙契約書が正規な契約書である旨申述していたことが認められ、また、乙契約書には前記のような形式上の不備があるものの、立合業者の署名もあるものであることのほか、右乙第三、五号証によって窺われる本件処分に対する異議申立及び審査請求手続の経過に照らすと、被告が乙契約書記載の代金額を正当な代金額と認定し、右代金額を基礎として本件処分をしたことに合理性がないとはいえず、原告の主張するように、本件処分に成立当初より外観上客観的に明白な瑕疵が存したとはいえない。

二  更に、原告は、被告が調査の過程で原告の帳簿等の調査を何ら行っていないから法人税法一三〇条に違反する旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はなく、かえって、原告代表者自身の供述によっても、被告所部係官が調査経過において原告の帳簿等の調査を行ったことが窺われるから、原告の右主張は、その前提を欠き失当である。

三  以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 吉原耕平 裁判官 安井省三 裁判官 水野智幸)

別紙

物件目録

一 静岡県袋井市山科字川井田二五一三-一の一部、二五一三-二、三、四、五、六

田 二、三五二平方メートル

二 右同県同市山科字川井田二五一三-七、八

宅地 六五一・五二平方メートル

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